おいで、愛しい子
さいごに話しをしよう
それは昔の御噺
海の中しか知らなかった
母様の話
私たちの肉は長命の薬になる
それこそ不老不死と呼ばれるほど
ゆえに人間に狙われ続けてきた
だから母様も、その上の母様も、更にその上の母様たちも
ずっと、ずっと
人間に見つからないよう
暗い、暗い
海の底で暮らしてきた
泣かないで、愛しい子
さいごに話しをしたいの
これは思い出話し
あなたの父様と出逢えた
母様の話
それは全てを巻き込んだある嵐の夜
それこそ海の底も震わすほど
そこに一人の人間が流れてきた
それが父様よ
美しい人だった
ふふ、そう母様の一目惚れ
きっと、きっと
これは運命だと思ったわ
どきん、どきん
って心臓が高鳴った
笑って、愛しい子
さいごの話しになるから
これはあなたの話
あなたが産まれてきてくれた
愛おしい話
そして父様の命を繋げて数年
それこそ色んな壁があったけど
あなたという宝石が宿ってくれた
とても嬉しくて、本当に幸せで、父様も母様も泣いたのよ
ずっと、ずっと
この幸せが続けば良い
けれど、けれど
時に時間って残酷ね
さぁ行って、愛しい子
さいごに話せてよかった
大好きよ、愛してるわ
これで話しは終わり
御伽噺は海の藻屑
過ぎ去った話
見上げる水面より煌めいて見えた貴方の横顔
ゆきましょう貴方の傍へ