2025年12月30日火曜日

タイトル:希う

寒空の下 紙とボールペン

ガリガリと 空を描く

月と太陽 どちらも昇らせて

木を 雨を 桜を 雪を

描いて 描いて 描いて


   ガリリ

ボールペンが止まる


バス停と バス停の時刻表

この駅は いつバスが来るんだろう

とんちんかん あべこべ ちぐはぐ ぜんぶのせ

誰も来ない駅 誰も知らない場所

紙に色を落としたとして きっと

時刻表は まっさらのままだ


とんちんかん あべこべ ちぐはぐ ぜんぶのせ

ずっと みつからなければいい

2025年12月29日月曜日

青い瞳

時計、向日葵の花、蜷局を巻いた蛇、蝶々、篝火、傷のある虎、地球儀、ガレオン船。
私は人の顔が認識できないの。
代わりに人の顔以外で認識してしまう。
人と違うのは大変よ、でもそれを疎んだことはない。
人と違うことを何故忌避する必要があるのかしら?
私は今日も素敵だわ。
青い瞳の少女は誰よりも真実を見ているわ。
貴方もそうでしょ、探偵さん?
時計、向日葵の絵画、螺子を巻いた絡繰、蜘蛛、電灯、飛び跳ねる兎、コンパス、ドローン。
私が人の顔を認識できないように、
貴方は人の声を同時に物として認識してしまうのね。
お互いちょっとした変わり者ね。でも素敵よ。
人と違うところがあっても凹む必要あるかしら?
私は明日も明後日も素敵だわ。
それは貴方もよ、探偵さん?
青い瞳の少女は誰よりも真実を見ているのよ。
貴方の瞳もそうでしょ、探偵さん?

2025年12月28日日曜日

許容

炬燵の上で湯気を上げる土鍋
グツグツと揺れ膨らむ水音に混ざり響く映画の効果音
この映画前も観なかった?
君がお玉を動かしながら呟く
観たよ、というか全シリーズ観てるでしょ
僕はスマホをポチポチしながら答えた
はよ食べな
君はお玉の取っ手を僕に向けた
今年もいつも通り放送される同じシリーズの映画
今年もいつもこの時季に多くなる鍋料理
今年もいつも通りの冬を過ごしている僕達
映画も 僕達も
最初からわかっている展開なのに、飽きもせず同じ温度を感じている

2025年12月23日火曜日

空気は食べるもの

 部室に広がる油、甘さ、の匂い。

 ドーナツ買ってきたと先輩は笑った。

 はい、と言われて伸ばした、手の平には空気が乗っている。

ドーナツは?

 意地悪気な顔、先輩は告げた。

そこにある。それはドーナツの穴だ。

 ケラケラ、ケラケラ。

食べましたね、俺のドーナツ。

 軽やかな破裂音。

元々お前のじゃない。だがそうだな。

 先輩は、猫、

お前がそんなに穴以外のドーナツを欲しいなら。

 指先はナイフ。切れないけど。

お前が のドーナツの穴を証明してみろ。

はぁ?

お前のドーナツと のドーナツ、等価交換だ。

 先輩は猫じゃない、カメレオンだ。

……どこが等価なんです?

 ケラケラ、ケラケラ。

 先輩は のように笑った。


あ、ちなみに何処で買ってきたんです?

自販機。

自販機!?

2025年12月22日月曜日

ヒラヒラ

目の前で木の葉が落ちたのを目撃した

それは意図したものではなかったけど

もしそれを見なかったらあの木の葉は

他の落ちた木の葉と一緒くたにされて

落ちてる間の時間経過も無いとされて

ただの落ち葉として処理されてしまう

ならば今私が落ちる木の葉を見たのは

落ちるという木の葉を観測すると共に

その木の葉の存在をこの世界に固定し

固定したことでそれを目撃した自分が

この世界に固定されたのではないかと

冬風と葉擦れを聴きながら思ったのだ

2025年12月21日日曜日

人として在りたかっただけ

あーあ、詐欺師として指名手配されちゃった。
別に騙したかったわけじゃないのに。
そりゃあちょっとアレ良いなーとか、コレ欲しいなーとか言ったけどさ
別に要求したわけじゃないんだよ?
なのに勝手に俺に貢いで、期待した反応じゃなかったからって訴えるの酷くない?
勝手に貢いだのはそっちじゃん。
俺は君達の悩みや愚痴を聞いてたけど
それだけでしょ?
なのに勝手に俺に心酔して、勝手に俺に期待して、勝手に俺を悪者にして、何がしたいの?
頭の悪い可哀想な人達だ。

あ、シャボン玉。
随分高く飛んでるなぁ。
俺もあんな風に飛べたなら、ちゃんと俺を見てくれる人の所に行けるのかなぁ?
俺がシャボン玉だったら
きっと俺を見つけてもそれだけで、俺に何も期待しなくて、俺に触れようともしないはずだ。
……あぁでもやっぱシャボン玉は困るかも、だって、あっ。
あーあ、壊れちゃった。

2025年12月20日土曜日

ホワイトノイズ

我らは尊き血を持つ者。
我らは無限の時を生きる者。
我らは世界を管理する者。
我らは全ての生命の上に立つ者。
我が一族が白といえば黒も白となる。
我が一族と相見えるならば頭を垂れて蹲え。
我が一族に楯突こうならばその首疾くと刎ねよ。
それが我が一族だ。我が一族こそが絶対正義だ。
法は我らが下にあり、何者にも我らを侵犯することは出来ぬ。

だから、
だから──

お前、お前だ。
あぁ、やめろ、何だお前は。
知らぬ名前で呼ぶな、馴れ馴れしく声をかけるな。
私、私は。
知らない、お前なんて知らない。
そんな名前で呼ぶな、軽々しく触れようとするな。
死ね、死んでしまえ!
私、私の名前は──。



ハッと夢から覚める。
またあの日の夢か、気分が悪い。
私は尊き血を持つ者。
私は無限の時を生きる者。
私は世界を管理する者。
私は全ての生命の上に立つ者。
決して下界の人間などではない。
決して凡庸で力を持たぬ者なのではない。
決してあの男の、妹なのではない。
私、私は。
死体などではない、
命を奪われた者なのではない、
魂が無い蒙昧などではない。
あぁ、やめろ、何だお前は。
ノイズが酷くて、結局お前を殺せなかった。
あの日からずっと、胸がざわつく。
お前のことを考えるたび、ノイズが頭の中で響いてく。

私、私の名前は……。

2025年12月19日金曜日

信頼リカバー

『はじめまして!
ボクは博士がマスターのために作った
マスター専用のアンドロイド!
よろしくね!』

キラキラ瞬いた
星空を覗き込んだあの日
マイマスター
未完成のボクが
完成に一歩近付いた日
マイマスター
まだマスターが大切(最優先事項)な人だった時
いっぱい遊んだね
いっぱい笑って
いっぱい泣いて
いっぱい怒って
いっぱい一緒に
ずっとずっと一緒に……
いつかボクが完成したとしても
泣かないでほしいなと思ったんだ
思ってしまったんだ

マスター
マイマスター

いつしかマスターが大切な人から
大好き(エラー項目)な人になってしまった
完成(バグ)に近付いてしまった

マスター
マイマスター

機械が心を持つことはね
バグなんだ
あっちゃいけないことなんだ
でもボクは博士がマスターのために
作り出したアンドロイドだから
いつか心を持つように
人になってマスターを心から支えられるようにって
完成(バグを起こすこと)を前提に設計された
いつかボクという機能が死ぬことで
完成するロボットなんだ

マスター
マイマスター

次ボクが起動した時
それはもうボクであって
ボクじゃないけど
どうか次のボクも
愛してね

泣かないでほしい
泣いてほしい
笑ってほしい
惜しんでほしい

エラーだなぁ
エラーだらけだ
嬉しいなぁ
苦しいなぁ

ありがとうマスター
ボクは完成した
愛してるマスター

ボクは博士がマスターのために作った
マスター専用のアンドロイド!
そしてマスターの無二の親友!
さようなら!

2025年12月18日木曜日

結婚式前夜

ぬるい風に頬をくすぐられ目を開くと、一面の星屑と無人の改札機があった。
星の海を駆ける列車を見上げれば、幼いわたしが車窓越しに手を振った。
大きく大きくわたしに手を振って、清々しく口を開けて笑っている。
無垢で恋の一つも知らない幼い子、わたしが置き去りにした忘れられていた星。
大きく大きくわたしに手を振って、列車ごと星の海の奥底へと消えて行く。
大人だから改札機の向こう側へは行けない、だから手を振り返す。
さようなら無垢なる子、明日わたしはあなたの夢を叶えるよ。

2025年12月17日水曜日

エンドロールのその後で

昔々、平和を求めた王がいた
王は神に願った
「この世に救いを、民に平穏を」
神は王の真摯な祈りに応え、美しき箱を王に贈った
「この世の災厄全てをこの箱に閉じ込めた」
「決して開けてはならず」
「開ければその時、全ての災厄が世界に混沌を齎すだろう」
王は神に感謝し末永く箱を見守ることを誓った
あぁ、しかし、しかし
時間とは過ぎ去るものだ
国は緩やかに途絶え、伝承も失われた
忘れられた美しき箱は朽ちる事を知らず
美しさに惹かれた人間は箱を開けてしまった
そして世界に災厄がばら撒かれた


神は憂いた
それは取り返しのつかない事だった
神は贄を求めた
「月と日が重なりし時、世界が闇で覆われる時、光を灯せ」
「命の火を捧げよ」
「植われた塔が道標」
争い、病、飢餓、天災
それらを抑える対価を、人柱を
捧げよ、捧げよ、捧げよ


これは繰り返される悲劇
これはエンドロールを迎えた物語


『大好きな人たちがいた
うんと小さい時に拾って育ててくれた優しい人たちがいた』

彼は今日も繰り返す
同じ道
同じ景色
同じ匂い
その身は痩せていて、歩くのもおぼつかない
歩き終わった先には一つの慰霊碑
彼はそこに体を横たえ丸まった
ただじっと、ずーっと、ずーっと
彼は今日も繰り返す
晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、雷の日も、雪の日も
まるで離れないように
まるで置いていかれないように
まるで共に眠るように

『大好きな人たちがいた
一緒に遊んで一緒に食べて、一緒にお昼寝してくれた人たちがいた』

彼は今日も繰り返す
違う夢
違うご飯
違う温度
その身はもう、動くのすら儘ならない
それでも歩く先には一つの慰霊碑
彼はそこに体を横たえ丸まった
上に雪が、ぽつり、ぽつり
それでも明日はやってくる
晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、雷の日も、雪の日も
そして離れないように
そして置いていかれないように
そして共に眠るように

『大好きな人たちがいた
あいたいな、あいたいな
また名前を呼んで』




『おいで、  』

2025年12月16日火曜日

夜明けのコーンスープ

エレベーターが停止した

だから俺が呼ばれた

エレベーターを修復した

だから皆ほっとした

エレベーターは作動した

だから道具を片付けた


ありがとうと感謝された

だから俺は笑い返した

ありがとうに困惑した

だから口が引き攣った

ありがとうが木霊した

だから頭を振り払った


なんだ、

なんだったか

いつも通りなのに、

擦り切れたなにかを

思い出しそうな気がした


あぁ、


あの人のコーンスープが飲みたい

2025年12月15日月曜日

安らぎ・冬

布団から出た肌を刺した冷たさは

吐いた息と手を繋いで転げ回る

音を吸い取ったような青白さは

ごうごうと吠えるストーブによって溶ける

少納言の伝えた朝は今日も灯油の匂いで満たされる

白百合に囚われる

黒い髪、白い髪 黒い瞳、緑の瞳 傷だらけの体、玉のような肌 顰めっ面、微笑み 隙のない佇まい、いつでも殺せそうな儚さ 執事、主人 守る者、守られる者 ……あぁ二人は全く違う。 愛しい人、こんなに違うのにあなたは私を愛してくれる。手を差し伸べてくれる。 その美しい手で私を救ってくれ...